ミッドナイトコール

『ミッドナイトコール』(田口ランディ/PHP研究所/2000)

雨の日は何となく寂しい。
気温が下がるからだろうか、空が陰り街の色が暗くなるからだろうか、それとも単純にひとりで過ごすことが多くなるからだろうか――。
携帯電話が普及した今、その場にいない人とも簡単にコミュニケーションが取れるようになった。雨の日も携帯電話で誰かと話したり、メールのやり取りをして寂しさをごまかしながら過ごすことが可能になったのだ。しかし、携帯電話をあらゆる人が当たり前に持つようになったのもここ最近のこと。それ以前はひとりで過ごす部屋の中、固定電話の前でうずくまりながら誰かからの発信を待たねばならなかったのである。
田口ランディの『ミッドナイトコール』は、そんな時代の寂しい女たちを描いた9編の短編小説集である。泥酔し過去の男たちにいたずら電話をかける女や、好きだった男に自分の結婚式のスピーチを頼む女、優しい不倫男との関係を断ち切れない女――。主人公たちはみな、恋愛に振り回される不器用で馬鹿な存在であり、人とつながっていたい寂しい現代の一個人である。
雨の日は確かに寂しい。でも、たまにはそんな日を誰かとのつながりを携帯電話を握りしめながら待つより、文庫本の1冊でも読みながら雨がやむのを待つのも一興かもしれない。(E.M)

ミッドナイト・コール (PHP文庫)

ミッドナイト・コール (PHP文庫)