松林図屏風

『松林図屏風』(長谷川等伯/東京国立博物館)

日本人には適度な湿度が不可欠だという。これは呼吸器官の形状に由来するらしく、乾燥した地域に住む人々とは異なるらしい。湿度は雨と深く関係する。そのためか、日本画には雨や霧が描かれたものが多くある。
長谷川等伯の代表作「松林図屏風」は、まさしく雨の絵である。けぶる霧の中、ゆらゆらと立つ松の木々。この景色は雨の後、もしくは小雨の降る中か。時刻は日が上り始めた頃だろうか。そんなことを考えていると、雨に濡れた植物のにおいや、山に充満する湿度の高い空気まで感じ取れそうになる。いや、感じ取るだけではなく、その体験を欲してしまう。
おそらくだがこの2隻は今後、美術館でしかお目にかかることができないだろう。だとすれば、是非雨の日にこの絵を見ていただきたい。たとえ、美術館の外の景色が松林でなくとも、そこに肺を満たすほどの湿度と、草木から発せられる、あの独特な匂いがあれば、普段は煩わしく感じてしまう雨さえも愛おしく感じることができるだろう。また、その体験によって「松林図屏風」は完成するのではないかと思う。(M.K♂)