ヒミズ

ヒミズ』(古谷実/2001-2003)

雨ネタもそろそろ尽きてきたところで、本当に困ってペラペラめくってみたこの『ヒミズ』に雨降りの箇所を偶然見つけたのでレビューする。のだが、うっかり重大なことを忘れていた。雨に関係あろうとなかろうと、この作品は読んでおけ!!!ということ。古谷実といえば初期の『行け!稲中卓球部』で強烈なギャグ作家というイメージがついているが、『シガテラ』からこの『ヒミズ』、さらに『わにとがげぎす』『ヒメアノール』にいたるまで、ギャグ路線は明らかに後景に退き(といってもギャグがないわけではないが)、時に背筋が凍るほどエッジの効いたシリアスな作風が前面化しているのだ。その「転向」に対してネットでは、「何が言いたいかわからない」という否定的な評価が目立つ。しかし、評者は断然、この「転向」の支持に回ろう。評者は現代の純文学とは、小説ではなくマンガが担うものだと考えているが、その純文学中の純文学を描いているのは、どう考えてもこの作家としか思えないからだ。現代において「普通」であることがいかに尊いことでいて困難なことなのか。かつて数々の「笑える奇人」を描いていた古谷実は、そのことを繰り返し重層的に紡ぐ現代の純文学作家だ。(I.Y)

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)