昼間から呑む

ノ・ヨンソク/2009/韓/シネマート新宿・六本木にて

「男と女と車があれば映画になる」と言ったのは、ジャン=リュック・ゴダールであるが、『昼間から呑む』は「男と女と酒があれば映画になる」とも言えるのだと言わんばかりの映画である。
話なんかあってないもんである。失恋して、酒の勢いでした約束をまじめに守って、酒を呑んで、女に騙されて、酒に呑んで、カップルに騙されて、……気づいただろうが、酒を呑むと騙されるかひどい目にあうのが交互に行われるだけで、進歩もなければ、発展もない。だが、妙に入れ込んで共感してしまうのである。それは、かつてやくざ映画の上映中にそれを観ていた本物のやくざたちが思わず「健さん、危ない」と届くはずもない画面に映る高倉健に呼びかけてしまうような類のものである。

いくら失敗しても、やめられないのが酒だったりする。二日酔いで痛む頭を抱えながら酒は控えようと誓うものの、いざ飲み会の場になると「付き合い」という格好の大義名分を得て1杯だけと手を出す。だが、酒が好きな人間が酒を口にしておいて、そこでやめられるわけがない。飲みすぎなければいいと言い訳をしつつ次々と杯をあけて、結局次の日にはまた二日酔いの頭痛を抱えて誓いを打ち立てる羽目になるのだ。
また、酒を呑んで失敗した仇討がひどい。騙されることはこちらとて十分承知していたが、雪がうっすら積もる道路しかない野山に、上着なしの下半身パンツ一丁で放置。膝をくっつけた内股というなんとも情けない姿で必死にヒッチハイクするものの、そんな不審な格好をした若者に止まってくれるような良心的な車は現れずに時間ばかりがすぎていく。車が通るまでは道路端のドラム缶の脇で体操座り。時間の経過とともに明るかった空も日が落ちてくる。もうその寒さといったら尋常じゃないだろう。雪が積もっている時点でおよそ気温は零度前後。演技以前に主人公を演じている彼は一人間として寒いはずだ。上半身も雪山にしては薄着すぎるし、下半身なんぞその大きく露出した足が寒々しくて見ていられない。もしかすると彼はこの撮影でどこか凍傷になっているかもしれない。ずっと車を拾えなかった彼も日が落ちてきて暗くなって、ここを逃したらやばいというところで、彼は指を出しつつも、ありったけの力を振り絞って車の前に立ちはだかる。身体を張って車を止めたのだ。あまりの嬉しさに、思わず拍手しそうになってしまった。

それでも酒を飲むんだから、酒を絶つことができない大の酒好きに、あきれつつも愛着がわいてしまう。彼が酒を前に躊躇しているのを思わず、がんばって断るんだ、と拳を握りしめて応援してしまう。まあ、それでも飲んでしまうのだが。
この監督は酒好きがどんな人間だかよくわかっている。そしてさらに特筆すべきことは、この酒好きの反復行為は映画において車と同じ働きができるということをよく発見したものだ。その証拠に、この映画では主人公が車を運転することは決してないが、立派なロードムービーである。(M.K♀)