悩殺ハムレット 〜「女体シェイクスピアシリーズ」第1弾

やり尽くされているであろう、古典シェウクスピアの『ハムレット』をここまで引き寄せられるもめずらしい。「女体シェイクスピアシリーズ」の第1弾となる劇団・柿喰う客の最新作『悩殺ハムレット』は、女体の文字通り女性だけの現代版『ハムレット』である。

現代版というと、ハムレットを現代に置き換えた再話のようなものを連想されるかもしれない。しかし、この『悩殺ハムレット』の舞台も時代もそのまま。シェイクスピアの中でも最も長い戯曲のため、かいつまみはしてあるのだが、基本的には言葉遣いと衣装や美術、音楽のみが現代風に置き換えてあるだけである。それでも、「現代版」が強烈なインパクトをもつのは巧妙な置き換えによるためだろう。


 デンマーク王室はまるでホストクラブである。
そして、現デンマーク王のクローディアスは派手なスーツを着こなすホストクラブのキング。ガートルートもどこかのギャバ嬢。彼らは夜通しクラブ音楽をがんがんに鳴らして、酒をつぎつぎと空けて、踊り狂う。へこんでいるハムレットに対して「アゲてけよハムレット。お前がヘコでたら、みんなアガんねーだろ」と声をかける。

 彼らがかかさず行う上演のあとのアフタートークでなぜこのような現代版になったのかの質問に中屋敷氏はこう答える。「夜、宴会―と連想していったらこうなっただけです。ぼくは誤読の天才なんです。」しかし、これを誤読としていいのだろうか。たしかに、『ハムレット』に描かれた夜の饗宴や権力闘争やメラコンニックなハムレットの思想は、時代のフィルターを通せば、堅く重々しい時代遅れな諸産物にすぎないが、現代のフィルターにかえれば、毎日のように夜遊びをし、金や地位がすべてで、男と女がくっついたり離れたり。その傍らで時代を嘆く鬱気味な王子。まさしく、ケータイ小説もびっくりの現代の愛憎劇ではないか。500年以上はるか昔の『ハムレット』をやっているだけなのに、観客であるわたしたちは、もう平成の、いまの話にしか見えなくなってくる。
 
 さらに、演出する過程で中屋敷氏はさらなる発見をしたと語る。それはセリフの言い回しではなく、その言い方で、セリフはチャラくなるということだ。『ハムレット』の中の有名なセリフ”To be or not to be, that is the question”を今回「生きちゃう系? 死んじゃう系? ソレ問題じゃね?」としていたが、一般的な翻訳である「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ。」という言い回しも、言い方でチャラくなると、実演付きで説明をしていた。

 ホストクラブでの『悩殺ハムレット』。「女体シェイクスピアシリーズ」第2弾は『絶頂マクベス』の予定とのこと。次はどう誤読してくるのか、楽しみでならない。(増田景子)