未来はどう創る?−『ハンズ・アップ!』

未来はどう創られるのだろう。
映画では未来をも映すが,実際はその未来はだれかの想像力によって創られた「未来らしき空間」でしかない。よってどんなに巧妙でも,どんなに稚拙でも「未来」はすべて創られた偽物なのである。だからこそ、いかなる「未来」を創ったのかということは気になるところである。

『ハンズ・アップ!』はサヴォア邸から始まる。サヴォア邸は「未来」だ。

青々とした芝生の上に浮いている真っ白なサヴォア邸を歩くひとりの老婦人は彼女のこどものころの話をぽつりぽつりと語りだす。「大統領の名前は忘れたけれど」それは2009年のお話。つまり,こちらからしてみればほんの2年前の話である。彼女がいるのはいったい何年なのだろう,2009年に小学校高学年だから2070年くらいだろうか,21世紀も折り返しをすぎた遠い未来にいるらしい。
21世紀後半の未来として使われたサヴォア邸はル・コルビュジェによって設計されて1931年に竣工されたもの。1931年の建物が1世紀半以上先の未来の表れとして使われているなんて!

そこでゴダールの『アルファヴィル』を思い出す。

アルファヴィル1984年に探偵のレミー・コーションが地球から9000キロ離れた星雲都市アルファヴィルに行く話で,未来が舞台の話ではないのだが,空想都市で、同じ偽物という点でここでは「未来」といえるだろう。その星雲都市アルファヴィルの街は撮影当時の1960年代中頃のパリである。室内もセットを組めばいいものを、どこかの近代建築を「未来」建物として使っている。

実は『ハンズ・アップ!』の監督ゴダールの監督助手を経験しておりつながりはあるのだが、それにしてもセットを組んだり、CG処理したり、いくらでも創る手段があるだろう「未来」をあえて既成の近代建築を使うというのは、予算の問題以上に近代建築が「未来」になりうる要素を持っているからかもしれない。その答えのヒントを抜粋してこの駄文をしめるとしよう。

空間の奥行きを出すことが映画建築の第一のチャレンジで、これは主にムーヴィーカメラの録画能力に限界があるからである。(中略)もっとも簡単なトリックは壁とか仕切り、あるいは大きな物を画面の前景に置くことである。これらの要素がフレームとして機能し、前景と後景との距離感が強くなる。同じく有効なのは偽りの遠近法を使うことで、これは遠くの物を前景に置く物より小さくつくり、見せかけの奥行きをつくるのである。このような視覚のいたずら以外に、セット・デザインをうまく扱えば、空間をあんじすうことができ、近代建築はとくにこの目的に適っていることがわかった。
(『映画に見る近代建築』D・アルブレヒト
(増田景子)


映画に見る近代建築―デザイニング・ドリームス (SD選書)

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