わが星

前評の良さに期待しすぎて……と言った話はよくあるが、『わが星』はそんな前評による大きな期待なんかを軽く凌駕した、大きな感動を私にもたらした。とりあえず、「すごい」の3文字だ。この柴幸男ワールドに飲み込まれた私は、幕が下りて劇場を後にした後も、ずいぶん長い間その余韻に浸っていたと思う。いつのまにか頭の中で、劇中のビートが鳴り響き、自分も出演していたかのごとく、そのビートに合わせたあの歩き方で三鷹の駅まで歩きだしていたのだ。
 
ビックバンから始まり、地球が生まれてから死ぬまでが『わが星』の主な内容である。こんな大きくて壮大な話でありながら、その重さは全く感じさせない。
そもそも、この舞台は2幕構成なのだが、1幕目でその話の全貌が分からぬまま、ただただビートとリズムよく発せられる言葉たちに飲み込まれて終わってしまう。だが、その分からなさが快感なのだ。白い円の周りをくるくると回りながら作られた言葉と音の渦に飲みこまれていくようだ。渦の回転に飲まれながらフラッシュバックのように話の鱗片だけがちらちらと見えて1幕は終わってしまう。
 
で、4秒の休憩。

そして、1幕の内容を長く焼き直した2幕でやっと『わが星』の話がだんだんと見えてくる。これは、鉄筋コンクリート10階建の集合住宅に住むちーちゃん(=地球)ファミリーとお隣の月ちゃんの話であり、同時にそれは地球を始めとした太陽系の惑星と月の話である。ちーちゃんがくるっと1回転すれば1日が経ち、円を1周したら1年が経つ。そして同じようなことが繰り返されて積み重なっていく。ちーちゃんと親友の月ちゃんとの距離は年月が経つにつれて自然と離れていく一方だ。
また、ちーちゃんの話とねじれの位置に、先生と生徒の会話が存在し、「こうそく」を超えて、ちーちゃんに会いに行こうと試みる。
各々の話が何を言わんとしているかをいちいち綿密に理解しようとしたら頭はパンクしてしまうが、役者の動きによって生まれるリズムとビートと言葉のサウンドによりその難解さは相殺され、好奇心だけを持って、私たちは恐れることなく『わが星』渦の中に身をゆだねることが出来るのだ。(M.K♀)

わが星「OUR PLANET [DVD]

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