東北関東大震災被害者支援チャリティー・コンサート

「この曲に拍手はしないで頂きたい」そう言って、バッハのG線上のアリアの演奏が始まった。
 震災以後、多くのイベントが様々な理由から中止になるなか、ズービン・メータは「困難な状況下でも、音楽は力を発揮できる」という言葉と共に再来日した。彼のような巨匠が、放射能汚染の不安がつのるなか来日するということは、それだけで大きな話題であった。
 合唱団、N響が入場し、それに続いて入場したメータが壇上にあがったときには、より一層大きな拍手が送られた。メータから地震の被災者へのお悔やみと、お見舞いのメッセージがあり、全員で黙祷をした後に、冒頭の言葉と演奏があった。
 メータがこの震災に対してただならぬ思いを持っていたことは、この来日という決断、メッセージ、演奏から伝わってきた。急遽特別に演奏されたG線上のアリアが、あの場にいた私たち聴衆へ向けられた演奏ではなく、被災した人々へ安らぎや癒しを与えるための演奏であったことは、「拍手はいらない」という言葉からよくわかる。またこの演奏が約2000人の聴衆を通し、様々な形に変えられて被災地の人々に届いて欲しい、というメータの願いがこの演奏には込められていたように思う。
 雄々しくも、繊細なメータの指揮によって奏でられた第九は、何度も背筋がゾクっとするほどの素晴らしい演奏であった。あの日、あの場所にいた聴衆は、いかなる状況においても、芸術(音楽)が力を発揮することを知っただろう。少なくとも私は、物理的に困難な状況においても、芸術といわれるものが全く別の次元から力を与えてくれることを知ることができた。また、後のテレビ放送で確認できたことだが、メータは指揮をしながら合唱団と共に歓喜の歌を歌っていた。その姿にさらに感動を覚えた。
 震災以後、多くのチャリティーイベントが開催されているようだ。それらのイベントが、多くの人々に力を与えること願いたい。(M.K♂)