シュルレアリスム展 —パリ、ポンピドゥセンター所蔵作品によるー

ダリやマグリットらの絵画作品がまず思い浮かびやすいシュルレアリスムだが、その媒体は絵画や彫刻だけでなく、詩、小説、写真、映画、パフォーマンスetc…と、媒体も多種なうえ、表現技法も多彩だ。なかでもデペイズマンという技法が面白い。デペイズマン(dépaysement)とは、意外な組み合わせをおこなうことによって受け手を驚かせ、途方にくれさせることをいう。シュルレアリスムの詩ではこんなぐあいだ。

「この七面鳥は、もうあと数日しか真昼の太陽に輝くことができず、 (……) するとそこへちょっかいを出したのは人間の手で、これはあなたもうわさにきいていないわけではない野辺の花だった」
(ブルトン『溶ける魚』巌谷国士訳)

ただデタラメというわけでもない。前後の単語の関係性はあきらかにおかしいが、名詞が入るべきところには名詞が、動詞には動詞がきちんと収まっている。おかげで「まったく意味不明」と投げ出すことなく、ほんらい無関係な単語同士の連なりから、まったく予想だにしないイメージを引き出され、それに魅了されることになる。
シュルレアリスムの絵画作品などは、全体は非常に気味の悪い「現実離れした」表現のようにみえる。しかしディテールをよくみれば、よく知っているはずのものでしか構成されていないことがわかる。そのひとつひとつは「マッチ」や「牛の頭」といった〈ことば〉と置き換えが可能なパーツ群でできている。
正しい文法による周到なことばのコラージュから、パーツの並びの意味や文脈をむりやり構築し、無限に連想を引き出しつづけるのがデペイズマン技法だ。そのとき頭のなかは独自の解釈でいっぱいになっており、それが快感ですらある。
この展覧会そのものは他の美術館へは巡回しないようだが、ブルトンの詩や小説は翻訳が文庫で簡単に手に入るし、ダリやマグリットの作品は横浜美術館などで常設展示されている。ぜひこの機会に一読したり足を運んだりすることをオススメする。(O.H)