super8

監督:J.J.エイブラムス/2011/米 6月24日より全国公開

super8』はスティーブン・スピルバーグ製作、前作に『スタートレック』を撮っているによるJ.J.エイブラムス監督によるSF映画である。少年たちが不可解な列車事故の目撃するところから始まり、ことの真相を握る人物に意味深な言葉をなげかけられ、不可解な事件が多発し、行方不明者が続出し、空軍が総力をあげて何かをしている。もちろん得体のしれない未確認物体も登場。少年たちは事件を目撃したためにブラックリスト入りするものの、仲間と力を合わせてことの真相を探っていくと――。『super8』は見ての通り典型的なSF映画なのだ。



 だが、同時に映画製作の映画でもある。彼ら、少年たちは8mmカメラを回してゾンビ映画を撮っている映画小僧なのだ。もちろん列車事故に遭遇したのも映画の撮影中のことで、そんな事故が起こるともつゆ知らず、無免許運転で車を飛ばし夜中の無人駅でこれはチャンスと大興奮でカメラを回していたのだ。
 それにしてもこの映画小僧たちはどれだけ映画愛しているんだ。親の目を盗んで夜中に抜け出すなんて朝飯前。内密に連絡を取り合うために無線を使いこなし、特殊メイクや火薬も自分たちで作ってしまう。そんなことは映画小僧ならあることかもしれない。

 私が驚いたのは、列車事故のときの彼らだ。無人駅にいる彼らのすぐ脇を通り過ぎている最中の最終の巨大な貨物列車が前方で衝突をおこし、けたたましい衝突音と爆発音、列車は脱線して次々と車両が折り重なる。列車の金属片やら炎のかたまりが空から降ってくるわ、車両まるごと走る先に落下して爆発するわ、SF映画にはお約束のど派手なアクションシーンは全速力で逃げる少年たちにも容赦はない。炭だらけの真っ黒な顔をして九死に一生を得るような恐怖体験をした上に、事件のカギを握る瀕死の先生から「今見たことを口外すれば、君たちと君たちの親も殺される」と言われ、サイレン音が聞こえ懐中電灯の明かりが近づいてきて一刻も早く逃げなくてはいけない時に、カメラに爆竹にメイクセットといった彼らの仕事道具をわざわざ回収している。まったくそんなことしている場合じゃないのに。
さらに、今回の事件にビビッて映画製作を諦めるかといったら、その反対で、空軍が作業しているところで、ちゃっかり彼らが演じる空軍兵が出てくるシーンを撮影しているのだ。もちろん行方不明者が続出してようが夜の外出を控えることなんかないし、事件を撮ったフィルムも封印するどころか現像に出している。なんとも命知らずな奴らだ。彼らの製作意欲には恐怖体験も権力も歯が立たない。彼らの映画熱にブレーキをかけられるのはもはや色恋沙汰ぐらいだ。映画の出来は棚に上げて、映画小僧というよりも映画を撮るためならばいとも簡単に命を投げ出す、りっぱな映画製作者だ。
いや、出来だってこの事件のおかげで何倍も面白くなっている。彼らの脚本自体はよくある陳腐なゾンビ映画なのだが、映っているものが時々本物なのである。そう、彼らが映画を愛しているだけではなく、映画も彼らを愛しているのだろう。

 予告編も大して流れず、いつのまにか始まってしまった『super8』だが、見逃さなくてよかった1本だ。(増田景子)