シルバー世代の性愛学

シルバー世代の性愛学 (ベスト新書)

シルバー世代の性愛学 (ベスト新書)

 団鬼六といえば、官能小説を普段読まない人でさえ名前だけは知っているというSM官能小説界の重鎮であるが、本書は国の作った区分でいう「後期高齢者」にさしかかった著者が、高齢者の性愛について著した新書にしてエッセイ集である。

 一般的には、おじいちゃんにもなってセックスにはげむのは、「恥ずかしいこと」であったり「みっともないこと」であったりするのだろう。しかし、そのようなくだらない「常識」を著者はあっさり乗り越える。男たるもの、おっきするかぎりは「男」であるし、ヤリたいと思うかぎりは「男」なのだ。人生「太く短く」か「細く長く」かという二択の議論があるが、別にどちらか一方を選ばなくたっていい。著者に言わせれば太く長く(そして硬く!)な人生を送ったって、それはそれでいいのである。

 ちなみにこれは、氏個人の単なる希望的観測でもないらしく、本書では老人ホームなどで出会った高齢者カップルのセックスライフも紹介されている。中には、ベランダから相手の部屋に侵入するという、お前ら高校生の寮生活かというエピソードも明かされる。高齢者だからといって侮ってはならないのだよ、そこのチェリーボーイ!

 こうした氏の考え方を貫いているのは快楽主義だ。ただそれは、若い男女がネットを介して簡単に結びつくような軽薄な部類のものではない――事実それらを氏は「情緒もなにもない」と否定している。氏が本書で指南するのは、濃厚でいて激烈な、年輪を重ねた者だけが味わえる高み。氏の快楽主義とはきっと、命を賭したからこそ人生そのものを豊かにできる、そんな情交の別名なのだ。

 周知の事実だが、本書が出版された約一年後の今年5月に、団鬼六食道がんで亡くなった。それを知っているだけに、巻末にて藤岡琢也石立鉄男といった盟友たちが先に逝ったことをさみしがりながらも、「こうなったらできるだけ生きよう」と宣言し、「死ぬまでにどんだけ本を書くことができるか」とこれからの展望を語っている箇所で、やりきれない気持ちになるのは僕だけだろうか。

 この文言だけを読めば氏はまだ志半ばだったのかもしれない。しかし、「描くはずだった放物線」を後世に惜しまれながら見上げられるくらいの方が、カッコいい男の死にざまなのかもしれない。そう考えさせられる一冊だった。(今田祐介)

Amazon自筆レビューを加筆修正して掲載