裸心 ─なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?─

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?

 男性誌でのAV女優のインタビューといえば、「オナニーは週何回しまーす♪」や「エッチ大好きでーす♪」など、鼻の下を伸ばしたバカな男性読者の「こうあってほしいAV女優像」を上塗りするようなやりとりに終始する記事がお約束だ。

 だが本書はそうした幻想の延長線上にはない。本書は、『週刊プレイボーイ』などでおなじみのAV女優インタビューを手掛ける著者が、人気女優8人へインタビューした400ページもの厚さの渾身の一冊だ。

 この本の目的は、カメラの前で裸体を晒してきた彼女たちも今まで明かすことなかった「裸心」を、インタビューを通してあらわにしていくこと。彼女たちにだって家族はいるし、本気でつきあっていた彼氏だっている。本書はそうした彼女たちのこれまでの人生を解き明かしていく。おもしろいのは、AV上ではあられもなく激しいプレイを見せつけてくる彼女たちが、中学や高校時代の初恋やなにかを聞かれ、顔を赤らめて恥ずかしがるところだ。こうした話を引き出せたのも、バーや居酒屋などのロケーションでお酒を酌み交わしながらのラフな雰囲気の対談形式をとった著者が巧かったのかもしれない。

 AV女優のインタビュー本では『名前のない女たち』シリーズがあるが、あのシリーズに登場する女の子の多くは、家が極貧だったり親からの虐待を受けたりで、ほぼ全ページにて不幸が大爆発する「ネクラ」な本だ。それは本書である女の子が述べる「ものすっごい不幸な環境に生まれ育って、家庭の事情とかでAVに出るとか、売り飛ばされるとかってイメージ」にそのまんま当てはまる。

 だが、本書はそれとは明らかにちがい、「ネアカ」だ。本書のインタビューは、どちらかといえばアイドルへのそれに近い。内容の八割はとりとめもない会話だ。彼女たちの熱烈なファン以外、はっきりいえばどーでもよい内容が続く。しかし、それが逆によかったりする。この本を読めば、彼女がいかにふつーの家庭で、ふつーに育ったのかが、よくわかる。『名前のない〜』シリーズが事実でないとは言わないが、あの本だけを読んで明らかに偏っていたイメージが、この本で若干修正される。

 評者が興味を持ったのは、AV女優という職業の是非についての多くの女の子の告白に含まれる矛盾だ。みな人気女優としてのプライドをのぞかせる一方で、母親に「私がAVに出たのはお前のせいだよ」と吐き捨てる子や、もし娘が生まれても同じ道は歩ませないという子もいる。

 こうした矛盾が悪いわけじゃない。むしろ、AV業界の当事者の彼女らのこうした矛盾のある告白が、社会全体の抱える欺瞞(ex.女子高生の娘の行動に目を光らせるオヤジの書斎にある援交物のアダルトヴィデオetc)に気づかせてくれるのだ。

 本書のもう一つの魅力は、会話のやりとり自体が所々「エロい」ということだ。ある有名な映画監督いわく、男女の会話はそれ自体「前戯」なのだそうだが、中にはシティホテルで下着一枚という際どいシチュエーションで行われたインタビューも含まれている。もちろん文章上で「本番」はないが、読んでいて別の意味でも「興味深い」。個人的には、各女優に一枚くらいグラビアがあってもよかったのではないかと思うが、文章に徹したことは筆者のインタビューへの意気込みの表れかもしれない。

 この本がAV女優の「裸心」を晒すことができたかというと、それはよくわからない。だいたい、酔っぱらった上でのインタビューだ。その場のノリで言ってしまった言葉も多いだろう。しかし、酔いながらもインタビュアー、インタビュイー双方が誠実に語り合った、誠実な仕事だと感じる。(今田祐介)